戦国最強と言われた武田信玄と八王子、松姫について

「月百姿」「武田信玄」

戦国最強とも言われる武田信玄と東京八王子市はつながりが深く、武田信玄の四女松姫が滞在していたことに由来します。徳川家康は三方ヶ原の戦いで敗れていたことからも武田信玄の強さを認めていたと言われ、甲斐・信濃を平定した際に徳川四天王の一人、井伊直政に武田の赤備えを継承させたことがその象徴で、旧武田家臣を重用したことから信玄の軍学書「甲陽軍鑑」が江戸時代に多く読まれたとのことです。

徳川家康が重用した天海僧正も当初は武田信玄が甲斐に招いており、天海は「足利学校」などで、儒学・漢学・易学・天文学・国学・医学・兵学など幅広い学問を習得していたことを武田信玄は知っており、身寄りのない少女を引き受け、歩き巫女として全国で諜報活動していたことからも多くの情報を得ていたと思われます。

武田信玄四女 松姫の生涯

信松院 松姫墓所

武田信玄四女松姫は七歳のときに、織田信長の嫡子で当時十一歳の信忠と婚約するも、三方ヶ原の戦いでは織田信長は徳川家康のために援軍を送り、松姫と信忠との婚約は破棄されます。武田勝頼も信忠率いる織田・徳川両軍の侵攻で討死、松姫は、兄盛信の子督姫、勝頼の子貞姫、小山田信茂の子香貴姫を伴い、武蔵国横山宿(八王子)に辿り着きます。その後、数々の縁談を断る中、信忠から正室に迎えたいとの知らせに信忠が滞在する京都へ向かいますが、その途中「本能寺の変」が起こり、信忠は二条御所で自刃することになります。それを受けて松姫は心源院の随翁舜悦卜山和尚の下で剃髪し仏弟子となり、二十二歳で信松禅尼となります。

信松院 「願い地蔵」

松姫は三人の子供を育てながら、その地で絹を織る織物を里人に伝え、後世八王子織物として発展していくことにもなります。松姫は生涯独身を貫き、女性の不幸は我身で沢山と、「全ての女性に幸せをもたらす女性のために守りたらん」と誓願を起こした、とのことです。

松姫が開基した八王子の信松院の松の木の下から松姫が亡くなって400年の年に右の小さな地蔵が発見され「願い地蔵」と名付けられています。

松姫から受け継がれる八王子千人同心の活躍

八王子 大久保石見守長安陣屋跡

徳川家康は八王子の地に松姫がいることは認識しており、関東支配後は関東の総代官所を八王子に置き、総代官には旧武田家臣の大久保長安を任命し、寺領として現在の信松院を贈ります。大久保長安は石見、佐渡、伊豆の金山、銀山の開発で活躍し、老中にまで上り詰めた人物ですが、信玄の傘下でも黒川金山開発を促進し支えています。

また家康は甲信への防御の為に旧武田家臣で構成される八王子千人同心を八王子に配置します。千人同心は松姫を心の拠り所としていたとのことです。この千人同心は、後に日光東照宮の守護に就き、その一人石坂弥次右衛門義礼は、戊辰戦争の時に日光東照宮を戦火から守るために無血で新政府軍に明け渡し、東照宮を戦火から救っています(ただその後八王子では戦わなかったことの責任を追及する声もあり、帰郷した夜に切腹することになります)。後年命を賭して東照宮を守った石坂弥次右衛門義礼から、八王子市と日光市は姉妹都市となり、菩提寺の興岳寺には墓前の香台として日光市から贈られたものがあります。また、その戊辰戦争で武田家臣板垣信方の末裔板垣退助が八王子に進軍した際には千人同心は礼装で迎え、徳川家への寛大な処置をしたためた嘆願書を提出するとともに、武器を差し出して恭順したとのことです。

松姫と保科正之の関係

江戸城天守閣から撮影

松姫の姉の見性院は家康に保護され、徳川秀忠の愛妾であるお志津の方が生んだ幸松丸(のちの保科正之)の養育を命じられ、秀忠の正妻のお江の嫉妬から守るために江戸城から離れて養育し、一時松姫のいる信松院でも養育されたと言われています。また幸松丸は松姫が亡くなった後は、見性院の縁で旧武田家臣の信濃国高遠藩主保科正光の子として養育されています。保科正之は家光を異母弟として支え、初代会津藩藩主として救急医療制度とも言われる「旅人が病気になった時、宿の主人は 医者に見せ治療してやること」「旅人の所持金が少ない時は藩が支給する」を確立しています。また明暦の大火の際には被災者救援にも力を尽くし、江戸の六カ所で、一日千表の炊き出しを行い、江戸城の再建よりも街の再建を優先したとのことです。その後江戸時代を通して江戸城の天守閣は再建されることはなく、その精神が受け継がれています。また、保科正之は側室の子の四女にも松姫と名付け、松姫への想いはあったのでは、と想像されます。

戦国最強と言われた武田信玄

武田信玄は「人は城、人は石垣、人は堀。情けは味方、仇は敵なり」として、一生、堀一重の館に住み堅牢な城を築かなかったとのことで、その精神は様々な形で受け継がれ、現代に息づいているように思います。



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